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打ち合わせの精度 = デザインの精度

不安感とデザイン

不安感デザインを職業として15年にもなる私ですが、正直、今でも日々悩みながら仕事をしています。
クライントの期待に応えられているか? エンドユーザーの心に響くものに仕上がっているか?社会に必要とされた良いモノを提供できているのか? と、不安と葛藤が永遠と続くのです。ただ最近ではこの不安感が、デザイナーを続けさせてくれている要因でもあるような気がしています。不安感が様々な検証や客観的な視点を持つための努力を促し、デザインをすることにプラスに作用しているように思えているのです。
ポジティブそんな不安感をポジティブに解釈して何とか自分を保つ毎日なのですが、デザインの制作を確信的に進めてくれる、言い換えると自分を救ってくれる要素もあります。その要素とは、クライアントとの『打ち合わせ』によって得られる「情報」です。うまく捕まえた「情報」は、仕事のゴールを目指す大きな指針になるとともに、不安感を払拭し、その結果までをも左右すると言っても過言ではありません。ですから、デザインにとって『打ち合わせ』がうまくできたかどうかが、とても重要なカギとなってくるのです。

デザイナーとアーティスト(芸術家)との違い

よく、お客様から「デザイナーってすごいね。アーティスト(芸術家)だよね!」と気軽に言われることがあるのですが、私は、「デザイナー」と「アーティスト」は全く違うものであると考えています。

アーティストアート(芸術)の発生の発端はアーティスト個人の心の中にあります。
個人の心の中に生まれた抽象的な何か、自然の美しさ、生命の神秘、社会に対する怒り…そんな個人的な心的衝動から、誰に頼まれたわけでもなく作品を作りむき出しの魂を社会に表明する。誰かの顔を伺いながら創作しないアーティストは孤高でかっこいいと思います。

逆にデザインは、クライアントからの依頼があって初めて制作が始まります。
デザイナーデザインの発生の発端はデザイナーの心の中にはなく、社会の側にあるのです。このことがアーティストとの大きな違いでしょう。デザインは、社会の多くの問題に発生の発端があり、その問題を発見して視覚的に解決していくことがデザイナーの職能と言えます。
ですから主役はデザイナーではなくクライアントですし、予算や納期など様々な条件や決定権も相手側にあります。主体が相手側にあるデザインにおいて、自分勝手な「どうです?かっこいいでしょう!」といった安易で個人的な感覚を押し付けるのはもってのほかです。個人的な趣味趣向によってつくられた無責任なデザインは、社会に悪影響を与え大きな損失を招くことにつながります。つまり、デザインは常に献身的な作業の集積であると言えるのかもしれません。

問題の本質を探るための「尋問」とは!?

デザインの場合、こちらから自主的に営業をかけて提案していくこともありますが、前述のように基本的にはクライアント側から「チラシを作りたい」「WEBをリニューアルしたい」「会社のロゴマークを変えたい」などの依頼があります。会社のイメージにつながる視覚的なものから直接的に経営・経済に及ぶ問題を、デザインで解決してほしいといったことが目的です。
そして、デザイナーは依頼された仕事を始めるときに、まず行うものがクライアントとの『打ち合わせ』になります。私の場合、初めての『打ち合わせ』では問題の本質を探るために割りと長い時間をかけて話を伺います。ゴール例えば「チラシを作りたい」という場合、デザイン制作を始める前に、なぜチラシを作りたいのかその理由を聞きます。「商品の売り上げをアップさせたい」「認知度を上げたい」など様々な理由から現状の問題を知ることができるのですが、その問題に対して「チラシを作ること」が適切な方法であるかどうかは別のことですので、まずその前提を疑い検証します。検証のうえ問題解決に「チラシを作ること」が最適でない場合(そういったことも多い) 違う方法を提案をすることもあります。そもそも、問題自体をクライアントがわかってないことも結構あるのですが、 話を伺うと本当に様々な問題がわかってきます。

そこで、問題解決に一番最適な方法を探るために『打ち合わせ』は重要なポイントになってくるのですが、相手の話を聞いた後、考えや目的が曖昧な場合は、執拗なまでに質問を投げかけています 。
「この要素は本当に必要なのでしょうか?」「この色の使用は絶対なのですか?」
「訴求させたい部分はここですね?」「ロゴマークを変えるリスクはないですか?」
「売上げを上げるためにこの方法で本当に良いのでしょうか?」

『打ち合わせ』の中で、私が考えていることが間違えていないかを確証できるまで繰り返します。ある種クライアントにとっては面倒臭い「尋問」のように思われるかもしれません(笑)。ただ、私のこの「尋問」によって、クライアント自身普段気づかなかったことに気づいていただいたり、向かうべき方向性やゴールを再確認していただいているように思われます。私もその中で重要な言葉や状況を「情報」として拾い、整理してイメージを構築する作業をしていきます。

『打ち合わせ』の心がけ3カ条

『打ち合わせ』で、私がいつも心がけていることがあります。

  1. クライアントと対等に向き合う!
  2. デザインのプロセスを一緒に楽しんでもらう!
  3. 駆け引きをしない!

打ち合わせ主役はクライアントで『打ち合わせ』の相手が偉い社長さんだったとしても、対等な立場で向き合うことが大切だと思っています。そうでないと本音をぶつけることができませし、問題の根源に向き合うこともできません。
また、「こういうふうに考えたので、この形が生まれました」「わかりやすく空のイメージ、使用色はスカイブルーでスピード感を出しました」など、デザイナーである私の、思考から可視化までのプロセスを理解して楽しんでもらいたいと考えています。そうすることでパートナーとしての意識が生まれ、デザインはクライアントとデザイナーの共同作業なんだということを認識してもらえると思っています。
そして何より、相手を試したり、仕事で駆け引きをしないようにしています。当たり前ですが、そのようなことをしたら相手の本質を引き出せませんし信頼を得ることはできません。あまり好きな言葉ではないですが「等身大・自然体」の自分でクライアントと接するようにしています。

目指すべきゴールに向けて

このような心がけで『打ち合わせ』に臨むと、自然と問題解決の糸口が見えてくるような気がしています。 良い『打ち合わせ』では、良い「情報」が得られ良いコンセプトが生まれますし、目指すべきゴールが必然的に見えてきます。『打ち合わせ』の中でクライアントの思いや問題の根源を引き出し、そこで得た「情報」をもとに社会に伝えるための的確な方法を見つけて具現化していく。デザインを『打ち合わせ』で得た「情報」の集積だとするならば、それらは『デザインの精度』を上げることに直結する一番重要な要素なのです。
NO MEETING, NO DESIGN心に響き多くの人の共感を得られた仕事を振り返ると、たいていの場合、精度の高い『打ち合わせ』ができていたことに気づきます。
つまり、『打ち合わせの精度』=『デザインの精度』であったことに気づかされるのです。
どこかで聞いたことがあるような言葉ですが…

NO MEETING, NO DESIGN.

そして、今日もまた悩みながら仕事をしています。

クリエイティブディレクター・アートディレクター / O.H